美容外科治療には慎重な姿勢をとっていたために、脂肪吸引と脂肪注入は一般の方には当院でおこなっていることは伝えていませんでした。
スタッフの増員、新しい麻酔の研究、生体監視装置の導入などによって、「脂肪吸引と脂肪注入、はじめました〜!」。
患者さんから要望が多かった脂肪吸引と脂肪注入を開始するにあたって、当院の考え方をお伝えします。
自分の脂肪を利用して、気になる部分の改善を目指す
お腹周りのだぶついた余剰の脂肪を無くした!消し去りたい❗との要望を多くの患者さんから受けていました。しかし、脂肪吸引のリスクを軽く見ると思わぬ事故が起こりかねません。24年間掛けて築き上げてきた当院の信頼を一気に失ってしまいます。
患者さんのリクエストがありながら対応できないのはユーザー心理をわきまえないとの批判も内外から聞こえてきていました。「脂肪吸引やっていないから他のクリニックでやっちゃったわよ!」「院長〜、脂肪吸引やってよ〜」としばしば言われるのも苦痛です。
脂肪吸引・脂肪注入を十分に経験したナースが数名入職したことをきっかけとして、当院でも脂肪吸引・脂肪注入を正式に美容外科部門のメニューに加えることとしました。
当院の美容外科担当の松下医師は形成外科出身ですが、以前かなり長い期間脂肪吸引・脂肪注入の大家のもとで修行をしていたのです。当時、私は松下医師に、「脂肪吸引はわかるけど、その脂肪を注入して本当に生着するの?」との疑問を投げかけていました。松下医師の回答は、「100%ではないですが、生着します❗」。
その後、長い年月が過ぎ去り吸引した脂肪を注入して効果的に生着させる研究も進みました。余分な脂肪を吸引して除去してそれを自分の気になる部分に注入する脂肪吸引と脂肪注入に関して当院で行っている方法と考え方を説明します。
すごい効果だけど、ちょっと本当かねえ?と思ってしまうレベル。協会が提供しているビフォー・アフターだから信頼度は高いと思いますよ。
※吸引した脂肪の生着率などに関しては「Bicompartmental breast lipostructuring」[1](PMID: 18188638)などの医学論文で検証されています。
安全に効果的な脂肪吸引を行うために当院が注意していること
脂肪吸引で起きる事故の多くは必要以上に大量の脂肪を一気に吸引することと治療時の麻酔の問題です。麻酔薬も効果的な新薬が登場しましたし、以前お伝えした「エクスパレル」という72時間に渡って鎮痛効果を発揮する薬も登場しました。
さらに当院には麻酔科を標榜できる医師もいますので、麻酔に関する安全性については十分に担保できています。また、保険診療部門で使用していた生体監視装置を脂肪吸引時でも使うことによって、安全性はさらに高まっています。
鼻のチューブは笑気麻酔。術前・術中の緊張を和らげる鎮痛鎮静効果があります。
リクエストの多いお腹周りの脂肪吸引に関しては、少々お待ちください。というのも腹部から吸引して採取した脂肪は繊維質が少ないために注入した場合に確実な皮下脂肪を形成しにくいのです。
そこで、脂肪吸引と脂肪注入が低侵襲性の顔の若返りの標準治療として海外では認められいることを「Fat transfer to the face: technique and new concepts」[2](PMID: 11457689)で再確認をして、現時点(2021年4月)では脂肪吸引は顔とアゴ周りに限定して開始しています。
脂肪吸引の詳細はこちらをどーぞ → 顔痩せの効果が最も高い脂肪吸引とはどんな施術か?
将来的には、近い将来ですが、他の部位への脂肪吸引・脂肪注入も検討しています。
効果的に脂肪注入をするためのコツ
せっかく吸引した脂肪ですから、なんらかの利用をしたくなるのが人情です(まあ、そんな事無いよ、って人は無視)。先程述べたように効果的な生着を考えた場合、現時点(2021年春)では脂肪吸引する場所は顔・アゴ周り・太もも・二の腕を推奨しています。
私と松下医師の間で意見の相違があった吸引した脂肪が生着するか問題。実は私の考えが古く、脂肪幹細胞という概念を抜きにしていたからです。実際には吸引した脂肪を脂肪100%にしないで、脂肪幹細胞や血小板を残すことによって注入した脂肪に対して周囲から毛細血管が入り込むことが知られるようになりました。
「The importance of adipose-derived stem cells and vascularized tissue regeneration in the field of tissue transplantation」[3](PMID: 18220849)は脂肪幹細胞と同時に血管系を構成する細胞を同時に注入することにより、血管新生がおこり脂肪吸引によって得られた脂肪を注入すれば生着することを示唆しています。
効果的な脂肪を注入できるように、当院はCRF療法(Condense Rich Fat,コンデンスリッチファット療法) を採用し、CRF協会の承認を得ています。
脂肪を注入する時は、細いカニューラ(Cannula、なぜか「カニューレ」と呼ぶ人も多い、先に穴の開いた管)を使用して、一気に注入すること無く、脂肪注入部の周囲の組織から毛細血管が十分に入り込めるように注意をしながら注入していきます。
脂肪吸引・脂肪注入の欠点と問題点
お腹周りから大量の脂肪を吸引して、その脂肪を豊胸に使用している医療機関も少なくありません。私が慎重というより弱気であるために、現時点では少量の脂肪を吸引して、気になる部分に注入することだけ行っています。注入する部分としては、当院の場合は目の下・おでこ・こめかみが適切と判断しています。
脂肪吸引の事故に関しては、ほとんどの原因が医師の心構えと患者さんの過大な期待と未熟な医師と看護師等にあります。
また、患者さん側の負担は以下の5つが一般的です。
- ダウンタイムの問題
- 皮下出血
- 術後の痛み
- 吸引した部分の凸凹
- 知覚神経のダメージ
あくまで当院の経験上は顔や顎から脂肪を吸引しても、適切な処置をしておけば早い方だと3日程度で脂肪吸引・脂肪注入のダウンタイムは収まってしまいます。
術後数日はこのフェイスバンドを装着してもらいますが、2021年は世の中のほとんどの人がマスクをしているので、マスクで十分隠すことができるとの証言(※当院スタッフ)あり。そういえばこのスタッフは水曜日に治療して、金曜日には普通に仕事していたぞ❗
皮下出血は事前に常用している薬のチェックだけでなく、事前検査として出血傾向を調べる血液検査も行っています。さらに現時点では広範囲に脂肪を吸引することは行っていませんので、皮下出血で困った症例は経験していません。
術後の痛みに関しては、前述のエクスパレルと通常の消炎鎮痛剤の服用で十分に抑えることが可能であると判断しています。
吸引した部分が凸凹した、との話をよく耳にしますが、腹部や大腿部から広範囲に大量の脂肪を吸引した場合は起こりがちです。患者さんの体質によるものもあるでしょうけど、多くは医師のテクニカルな問題、つまり未熟な医師が一気に大量に脂肪を吸引することが大きな原因だと考えられています。
知覚神経のダメージは皮下の末梢神経に脂肪吸引が影響するためのものであり、2−3ヶ月で自然に解消します。しかし、なるべくダメージを与えないように慎重に吸引して、注意深く注入するのも医師のテクニックに大きく左右されます。
脂肪吸引のリスクに関しては、総責任者である院長の私は「Cosmetic Liposuction: Preoperative Risk Factors, Major Complication Rates, and Safety of Combined Procedures 」(Aesthetic Surgery Journal, Volume 37, Issue 6, 1 June 2017, Pages 680–694,)[4]を参考にして、単独で行われる脂肪吸引は、重大な合併症のリスクが低い安全であることを確認して、開始を決定しました。
参考文献
- Zocchi ML, Zuliani F. Bicompartmental breast lipostructuring. Aesthetic Plast Surg. 2008 Mar;32(2):313-28. doi: 10.1007/s00266-007-9089-3. PMID: 18188638.
- Shiffman MA, Kaminski MV. Fat transfer to the face: technique and new concepts. Facial Plast Surg Clin North Am. 2001 May;9(2):229-37, viii. PMID: 11457689.
- Ogawa R. The importance of adipose-derived stem cells and vascularized tissue regeneration in the field of tissue transplantation. Curr Stem Cell Res Ther. 2006 Jan;1(1):13-20. doi: 10.2174/157488806775269043. PMID: 18220849.
- Kaoutzanis C, Gupta V, Winocour J, Layliev J, Ramirez R, Grotting JC, Higdon K. Cosmetic Liposuction: Preoperative Risk Factors, Major Complication Rates, and Safety of Combined Procedures. Aesthet Surg J. 2017 Jun 1;37(6):680-694. doi: 10.1093/asj/sjw243. PMID: 28430878.