今年になってから当院に突然「タトゥーを消したい」とか「刺青をレーザーで取れないか?」という問い合わせが殺到しています。当院としてはタトゥーの除去は以前から普通に行なっていた治療であり、積極的にインフォメーションしている治療でもありません。一方でタトゥーをレーザーで消すことを大々的に広告しているクリニックもあるのに、なんで当院がという素朴な疑問がやっと解決しました。
タトゥーを消したいという希望が急増
テレビ朝日系のドキュメンタリー番組『痛快!ビッグダディ』に出演?中のビッグダディの元奥さんである美奈子さんの見事なタトゥーというか、刺青が2014年1月5日のテレビ番組「私の何がイケないの? 」で取り上げられた為に、ご自分のタトゥーが気になる方が増えたという可能性にたどり着きました。
美奈子さん場合は結局は治療対象範囲が大きく、治療後の回復期間も小さな子供の面倒を見ないとならないために今回は除去を断念した、ということになっているようです(すいません、TV録画していなかったのでネット上に散在する情報がソースですので間違っているかもです)。
タトゥーを消すことは「あの人、美容整形したんじゃない」という反論をされる可能性はかなり低いので、例えばミランの本田選手の目が不自然、という話題のように不必要なスキャンダルにはならないと思います(美奈子さんと世界に誇る本田選手を比較に出してスイマセン)。
実は今回の美奈子さんのタトゥー除去に対して、当院にも取材の申し入れがありました。内容は当院で以前治療した患者さんと美奈子さんが、治療の流れやタトゥーを除去して生活や周りの反応がどのように変化したかについて対談をするという企画だったらしいです。
取材者側のご指名の当院の症例については、詳しくは「五本木クリニック タトゥーが消えるまで実録」をご覧ください。美容担当の松下医師が余りにも興味本位な内容の為にお断りした経緯がありました。
レーザー単独でこのタトゥーは消去可能か?という問題
その後、美奈子さんのタトゥーを当院で行なった患者さんのようにレーザー単独で治療可能か?ということについて院内でカンファレンスを行なったので、その結果をお伝えします。
- 美奈子さんのタトゥーは濃い青単色ではないので、レーザー単独では除去は不可能
- 微妙な赤色に対して有効なレーザーは現在存在しない
- 薄緑に対しても有効なレーザーの使用は難しい
という結果です。もちろんレーザーをタトゥーの色の特徴を無視して、強めに照射すれば当院所有の数種類のレーザーが得意とする色以外も除去する事は可能ですが、皮膚に元々存在するメラニンも吹き飛ばしてしまいますので「白抜け」という現象を引き起こしてしまいます。
レーザー以外のタトゥーの除去方法
タトゥーの除去方法として実は以外と知られていないのが「切除」という方法です。つまり、色の入っている部分を切り取って、そのあと縫い後が残らない・目立たないように丁寧に縫合する方法です。この治療方法は美容皮膚科の医師はあまり得意としないようで、もっぱら形成外科医の守備範囲と思われます。
今回、美奈子さんの刺青をこの切除法で治療する事も検討しました。かなり広範囲なので一度の治療で除去することは不可能ですし、何回も切除を繰り返すとそれだけ時間もかかりますし、傷跡も残ってしまう可能性がでてきます。
また、背中の皮って結構厚いために傷が目立ち易いのと日常の生活で伸び縮みする部分であるために、せっかくキレイに仕上がった傷が拡がってしまう可能性の対抗処置を考えないとなりません。そこで幾つかの方法をシミュレーションしました。
- レーザーで取れる限りの濃紺のタトゥーを治療する
- 左背中の中心部にある「薔薇」に対しては切除法を用いる
- 右背中の龍の様な赤と緑に対しては切除法を行なう
- 日常の生活に影響を及ぼさない為に、切除前には皮膚を十分に引き延ばす
- 皮膚を伸ばす為にティッシュエキスパンダーを使用する
ティッシュエキスパンダーというのは皮膚の下に一ヶ月ほど埋め込んで皮膚を伸ばすことによって、病変部の皮膚を切除しても引きつれないようにする為の医療器具です。乳がんによって大切な乳房を失った方の乳房を再建する手術の時にも使用され、安全性は確認済みの方法ですが、美奈子さんに使用する場合はもちろん乳房用ではないものを使用します。
一番困ったタトゥーの症例
レーザーで治療可能な刺青の色は「青」「黒」「茶」系とされていました。その後、多くの医師の工夫とレーザーの進化によって今までは不可能とされていた「赤」も色素の種類と深さによってはある程度の治療は可能となっています。
私が経験した中で一番困ったの症例は「日没後の海でジャンプしているイルカ」という非常に可愛いタトゥーなのですが、これはダメです。
※当院の症例ではありません
レーザー除去の効果が期待できない色が「黄色⋯日光」であり、ハワイをイメージした水平線に見える日没後の「オレンジ⋯太陽」、さらにキレイな「水色⋯イルカ」。このすべてのタトゥーの色素はどんなレーザーも反応しませんので、治療不可です。
浮かれ気分の旅行でハワイのお土産物屋さんにならんでいるク●スチャン・ラッ●ンの絵をお手本にタトゥーを入れてしまった方、ご注意くださいませ。
この方の場合は幸いにして刺青の範囲が小さかったので切除で治療を完了できました、良かったです。