49歳、女性のGさんは、約25年前に鼻にL型プロテーゼを入れました。術後の仕上がりにはとても満足し、その後、特に何のトラブルもなく順調に過ごしてきました。
しかし、2~3年前くらいから、鼻の不自然さが目立つようになり、気になり始めました。鼻筋があまりにも直線的過ぎて人工的に見えるのと、横から見た時に鼻先が直角すぎて尖って見えるのもいやで、いかにも整形しましたというような鼻になってきたのが耐えられないと言います。
鼻にプロテーゼを入れたものの抜きたいと悩まれている方、実際に抜去した体験話を聞きたい・知りたい方は多いと思います。ぜひこの記事で紹介する事例を参考になさってください。
不自然なプロテーゼ鼻
初診時のGさんの写真がこちらです。
まず、正面から見た鼻ですが、確かに鼻すじがやけに真っ直ぐで、しかも向かって右側にずれていますし、いかにも中に何か棒状のものが入っているような不自然な鼻すじになっていますね。
こちらは横から見た写真です。特に悪い形とは思いませんが、Gさんがおっしゃるように、直角三角形をくっつけたような直線的な鼻背のラインとあまりにも直角的な鼻先の形が人工的に見え、その点が気になるというお気持ちは理解できます。
このGさんのように、外から見て特に大きな異常は見られないのに、不自然さが気になって仕方がないという方が最近増えています。
今日はこのプロテーゼ鼻の不自然さについて詳しく述べたいと思います。
年とともに不自然さが目立ってくるプロテーゼ鼻
鼻の手術を1回も受けたことがない人が、初めて隆鼻術を行う場合、最適な方法はプロテーゼ法です。
プロテーゼ法には次のようなメリットがあります。
- 自家組織移植のように体の他の部位に傷がつくことがない。
- 細工が容易である。
- 吸収されないので術後の仕上がり具合を予測しやすい。
- いざとなれば簡単に抜くことができる。
- 手術手技が難しくないので経験の浅い医師でもできる。
ただし、L型のプロテーゼは鼻先にトラブルが生じる危険性が極めて高いので、今では使わないのが常識になっています。
I型のプロテーゼで厚みが3ミリ以下の薄めのものであればほぼ安全で、耐用年数も比較的長くなります。ただ、4ミリを超えるような厚めのプロテーゼをむりやり入れると、I型とはいってもやはり周りの組織を圧迫して将来なんらかのトラブルが生じる危険性が高まります。
いずれのプロテーゼにしても、体にとっては異物です。本来、体の中には存在しない異物を何十年も体内に埋め込むことになり、年数の経過とともに何らかのトラブルが生じ、いずれ抜かなければならなくなる可能性があります。
余談ですが、事故や戦場で鼻を失った方は、以下のようなエピテーゼと呼ばれる特殊なシリコン製の人工物を使ってカモフラージュすることがあります。
最近、当院に鼻修正の相談でいらっしゃる患者さんの中で多いのが、鼻の不自然さを訴える方です。
鼻すじがずれたり、曲がったり、鼻の皮膚が赤く変色したりといった誰が見ても明らかな異常はなく、一見きれいな鼻に見えるのですが、不自然さが気になるという方がたくさんいらっしゃいます。
(1)鼻が高すぎて不自然
(2)鼻の皮膚が白っぽく見えて不自然
(3)プロテーゼの輪郭が浮き出てきて不自然
(4)鼻の表情がなくなり不自然
(5)鼻先が異常にとがって見えて不自然
(6)鼻すじが直線的すぎて不自然
(7)鼻すじが異常にてかって見えて不自然
(8)写真を撮った時に鼻すじが異常に光って写り不自然
(9)顔のあちらこちらにシワが刻まれて老化しているのに、鼻の部分だけはツルッとしていて不自然
(10)笑った時に鼻先がとがったように見えて不自然。
このようないろいろな悩みが聞かれます。
この中で(1)のみは入れたプロテーゼが高すぎる、あるいはプロテーゼが骨格にフィットしていないのが原因ですが、(2)~(10)に関しては、皮膚が薄くなってしまったことが原因で起こる不自然さです。
プロテーゼ鼻が不自然になってくる理由
プロテーゼを入れた当初はとても良い形で気に入っていても、年数が経つにつれて不自然さが出てくるのはなぜでしょうか。
長年プロテーゼのような異物が入っていると、裏側から皮膚や皮下組織を圧迫し続け、皮下脂肪は溶けてなくなり、さらに皮膚までもが薄くなってペラペラになります。そうなるとプロテーゼの輪郭が浮き上がりその存在が強調されてしまい、不自然さが目立つようになるのです。
また、薄い皮膚の直下に硬い異物が入っているので、鼻の表面がこわばった感じになり無表情に見えます。
年をとって、まわりの皮膚にはシワが刻まれても、鼻の部分だけはプロテーゼでつっぱっていますからツルツルで不自然に見えます。
さらに、中のプロテーゼの色が白っぽく透けて見えたり、異物に圧迫されて血流が悪くなるため、さらに白くなり、特に冬場に冷たい風にあたったりすると、血の気のない真っ白な鼻になってしまいます。
このような不自然さが「あの人は鼻にプロテーゼをいれている」と人に気づかれてしまう大きな原因となります。
自己組織を移植する治療があらゆる面において最適解
このように、異物によって薄くなってしまった皮膚の厚みを戻すには自家組織移植一択です。
クリニックによっては、プロテーゼを抜いて、薄めのプロテーゼに入れ替えるところもありますが、異物を入れ続ける限り皮膚の厚みを戻すことはできません。いずれまた異物をとらなければならなくなる可能性があります。
Gさんは不自然なプロテーゼを抜いて、自己組織(筋膜、軟骨)に入れ替える手術をおこないました。
手術前後でどのように改善されたか見ていただきましょう。(左:術前、右:術後)
直線的な硬いイメージの鼻すじがやさしく自然な鼻すじに変わっています。また、ツルツルにつっぱっていた皮膚がゆるんで、鼻根部には年相応の自然な小じわも出ています。
横から見たところ(左:術前、右:術後)では、ツンと尖り過ぎていた鼻先が丸くなり、女性らしいやわらかい輪郭になっています。
自家組織移植の欠点として、組織採取部に傷跡が残ってしまうことがあります。筋膜は耳の上の側頭部、軟骨は耳の裏側から切開して取りますが、頭の傷あとは髪の毛で隠れますし、耳の傷も耳の裏の陰になるところなので目立つことはありません。
こちらが頭の傷あとです。髪の毛をかきわけてみると、ジグザグの傷あとがうっすらみえるのみです。
こちらは耳の傷あとです。写真中央に深く刻まれたシワのようにみえる溝がありますが、その少し右側にうっすらと縦にみえるのが傷跡ですが、ほとんどわかりません。
鼻に入れた異物(プロテーゼ)は一生もちません。いずれ取り出して自分の組織に入れ替える必要があります。
大きな異常は無くても、不自然さが気になる方は、自己組織に入れ替えることをおすすめします。
自家組織移植の場合、移植した組織が本来の自分の鼻と完全に一体化してなじむため、触った感触も自然で、レントゲンにも写りませんし、年をとれば鼻の部分も自然に老化していきます。
また、万が一鼻をケガしたとしても、異物が飛び出てくる心配もなく、普通の人の傷が自然に癒えるのと同じように治ります。つまり、何も手術をしていない人の鼻とほとんど同じ状態に戻せるのです。
不自然な異物を抜いて、自己組織でナチュラルな美鼻を取り戻しましょう。