MLBのロサンゼルス・エンゼルスで活躍中の大谷翔平選手は、右肘の靭帯を損傷した際、PRP注射という治療を受けました。他にも、田中将大投手をはじめ、多くのスポーツ選手がケガの際におこなっているこのPRP注射ですが、美容医療の分野でも大人気の治療で、当院でもほぼ毎日のようにおこなっています。
大谷翔平選手が靭帯損傷の治療でおこなったPRP注射とは?
PRPとは、Platelet Rich Plasmaの頭文字を並べたもので、日本語では「多血小板血漿」という難しい名前がついています。「血小板を多く含む血液成分」という意味です。
血液の中には、赤血球、白血球、血小板などいろいろな細胞が含まれていますが、その中から血小板という細胞を主に取り出し、濃縮したものを注射する治療がPRP注射です。
PRP注射は、細胞を利用して臓器や組織を再生させる「再生医療」に分類される最先端治療です。
平成26年11月25日に施行された「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」により、この治療を行う場合には厚生労働省の厳しい管理の下に行われます。よって、この治療は、厚生労働省の認可を受けたクリニックでしか行うことができません。当院はこの認可を受けています。
血小板には、細胞をどんどん増やし、活性化し、元気にしてくれる様々な種類の「成長因子」や「増殖因子」が豊富に含まれています。
例を挙げると、
PDGF:platelet-derived growth factor(血小板由来増殖因子)
TGF:transforming growth factor(トランスフォーミング成長因子)
EGF:epidermal growth factor(上皮成長因子)
FGF:fibroblast growth factor(線維芽細胞増殖因子)
VEGF:vascular endothelial growth factor(血管内皮細胞増殖因子)
IGF:insulin-like growth factor(インスリン様成長因子)
Interleukin β(インターロイキンβ)
といったように、いかにも効果がありそうな名前の成分が並んでいます。
このPRP注射は、本来、移植した骨の生着を高めたり、難治性の皮膚潰瘍の治癒を促進したりする目的で使われていました。それが、いろいろな分野で応用されるようになり、整形外科領域では、腱鞘炎や関節炎の治療、歯科領域ではインプラントのための骨造成治療などにも用いられ、また、美容医療の世界でも肌再生治療としてよく使われる定番の治療になっています。
若見えのための注射治療としては、ヒアルロン酸やコラーゲンの注射、ボトックス注射などがまず挙げられます。これらは人工的に製造した薬剤を使い、シワや凹みを埋めたり、筋肉をゆるめて表情ジワを改善したりして見かけ上若く見せる治療ですが、真の若返り法とは言えません。
これに対し、PRP注射は、自分自身の細胞成分を使い、直接細胞に働きかけて、細胞レベルから新たな再生をはかる治療法なのです。
PRP注射により、真皮のコラーゲンがどんどん増殖し、小じわや皮膚のハリが改善することでお肌に若々しさが出ます。
また、PRP注射は育毛増毛にも効果があり、成長因子により、毛根の毛母細胞が活性化することで、増毛効果が得られます。また、成長因子により血管が新生し、頭皮の血流が改善することで育毛促進効果もあるのです。
日本の成人男子の3人に1人が男性型脱毛症(AGA)です
いろいろな分野で応用され、様々な効果のあるPRP注射ですが、その中から今日は発毛治療にスポットを当てて解説していきます。
日本の統計では、成人男性の3人に1人が男性型脱毛症(AGA)といわれ、多くの方が薄毛で悩んでいます。最近、テレビCMや、電車内広告などで盛んに「AGA」という言葉が出てくるのでご存知の方も多いと思います。
これは、思春期以降の男性に生じ、前頭部の髪の生え際の後退、あるいは頭頂部の髪のボリュームの低下によって地肌が見えやすくなる症状で、放置すると徐々に進行し、確実に毛髪が減っていきます。
脱毛の部位や重症度によって、いろいろな分類法があります。
上図のハミルトン・ノーウッド(Hamilton-Norwood)分類では、1から順に7まで番号がふられていて、数字が大きくなるほど重症です。また、額の生え際から薄毛が始まるもの、頭頂部から始まるもの、混合型などいろいろなパターン別に分類されています。
AGAの主な原因は、男性ホルモンの一種である「ジヒドロテストステロン(DHT)」が頭髪の毛根を攻撃し、毛周期が乱されることによって、毛髪が成長しきらない前に抜けてしまうことです。そのほか、遺伝的な要素や、ストレス、偏った食生活や喫煙なども原因となります。
男性型脱毛症(AGA)の5つの治療法
男性型脱毛症(AGA)の代表的な治療法としては、以下の5種類があります。
- 外用療法
- 内服療法
- メソセラピー
- 育毛機器
- 植毛
外用療法
手軽に始められるのが、リアップに代表されるミノキシジルという外用剤(塗り薬)です。ミノキシジルには血管拡張作用があり、血管が拡張されると頭皮の血流がよくなり、毛根に栄養がいきわたることで発毛が促進されます。
内服療法
薄毛治療の代表的な飲み薬が、フィナステリド(プロペシア)です。この薬はAGAの原因である「ジヒドロテストステロン(DHT)」が頭髪の毛根を攻撃しないように、ブロックする作用があります。最近はさらに効果がアップしたディタステリド(ザガーロ)という飲み薬も出ています。
育毛機器
低出力レーザーやLEDなどの治療機器を使った方法です。特に低出力レーザーは皮膚の奥まで浸透し、毛根の細胞を刺激し、活性化させることで発毛を促します。
メソセラピー
発毛や育毛を促す作用のある薬剤を、直接頭皮に注入する方法です。特に、他人の幹細胞から人工的に抽出した成長因子(AAPE)という成分を注入する方法は、HARG(ハーグ)療法と呼ばれています。
植毛
まだ髪の毛が残っている部分(主に後頭部や側頭部)から、薄毛が進んでいる部分に、髪の毛を毛根ごと移植して生着させる外科的な治療法です。
これらの治療をどのような順番や組み合わせで行うかについては、日本皮膚科学会がガイドラインを定めています。
「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017 年版」
日本皮膚科学会が作成した「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017 年版」によると、それぞれの治療法に対し、科学的根拠に基づき、評価の高い順に以下のように5段階でランク付けがなされています。
A:行うよう強く勧める
B:行うよう勧める
C1:行ってもよい
C2:行わないほうがよい
D:行うべきではない
フィナステリド(プロペシア)やデュタステリド(ザガーロ)の内服療法とミノキシジルの外用療法がAランク、自家植毛とLED および低出力レーザー照射がBランクに分類されています。
薄毛が気になり始めたら、まず市販の育毛剤を試します。それで効果を実感できなければフィナステリド(プロペシア)とミノキシジルで治療を行います。薄毛がある程度進行した状況なら最初からフィナステリドとミノキシジルを併用して治療を行うのが一般的です。
それでも効果がない場合は、育毛機器やメソセラピーなどその他の治療法も組み合わせ、体質に合う方法を探っていくことになります。
自毛植毛は最後の手段ということになりますが、外科手術となりますので、ダウンタイムがあり、費用的にも高額となってしまいます。しかし、毛根が残っていない無毛部の治療法としては植毛以外の方法では効果がありません。
そんな中、新たな可能性を秘めた治療法として最近注目されているのが、自分自身の成長因子を使ったPRP療法です。
男性型脱毛症(AGA)の新しい治療法:PRP療法
PRP療法自体は20年以上の歴史があり、いろいろな分野で用いられていますが、それを発毛治療として応用する研究としては、は2015年頃より以下に挙げた論文報告があり、いずれも良好な結果が出ています。
「PRPによるしわ治療とAGA治療」楠本健司ほか:形成外科.2015-05-12 15:57:45
「Randomized Placebo-Controlled, Double-Blind, Half-Head Study to Assess the Efficacy of Platelet-Rich Plasma on the Treatment of Androgenetic Alopecia」Dermatol Surg. 2016 Apr;42 (4) :491-7. doi: 10.1097/DSS.0000000000000665.
「A Proposal of an Effective Platelet-rich Plasma Protocol for the Treatment of Androgenetic Alopecia」Int J Trichology. 2017 Oct-Dec; 9 (4) : 165–170.
PRP療法は第一選択の治療ではありませんが、次のような方に是非おすすめしたい新しい治療です。
- 様々な治療法を試しても効果がない方で、外科的な治療まで踏み切れないという方
- 飲み薬や塗り薬で副作用が出てしまい使えない方
- 薬剤に対し抵抗感があり使いたくない方
PRP療法は、自分自身の細胞を使う最先端の治療のため、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」などの法規に則って施術する必要があります。行える医療機関も厚生労働省が認可した施設のみとなり、行う際にも届け出や書類上の手続きが必要になります。このように現時点では広く一般に実施できるとは言い難いた治療のため、皮膚科学会のガイドラインでは、C2ランクとなっていますが、再生医療分野の発展は著しく、今後、大いに期待の持てる治療法だと思います。
ミノキシジルが副作用で体に合わない場合
ミノキシジルなどの塗り薬は、肌に合わないと、頭皮がかぶれるなどの刺激症状が出ることがあります。また、フィナステリド(プロペシア)やディタステリド(ザガーロ)の飲み薬は副作用として性欲減退や勃起不全、肝機能障害などが生じることがあります。
このように、副作用で薬が使えない場合や、薬物に頼りたくない方、他のいろいろな治療で効果がない方はPRP療法をおすすめします。
PRP発毛療法の症例(40代男性)を紹介