厚生労働省の統計によると、帝王切開の件数は年々増加しています。出産件数に占める帝王切開の割合は平成23年の調査では19.2%となっていて、赤ちゃんの5人に1人が帝王切開で産まれてきている計算になります。20年前と比較すると、約2倍に増加していることになり、今後も増える予測です。
帝王切開を受けた方の3人に1人がキズあとの症状で悩んでいます
そんな中で問題になってくるのが、帝王切開後のキズあとです。帝王切開には大きく分けて二種類の切開法があります。おへその下から恥骨(ちこつ)に向かって縦に切る方法(縦切開)と、陰毛の上を横方向に切る方法(横切開)です。
縦切開法は、お腹を開けやすく赤ちゃんを取り出しやすいのと、術後の痛みも少なく、2回目以降の帝王切開もやりやすいというメリットが多いのですが、短所として、ケロイドになりやすくキズあとが目立ってしまうという問題があります。
横切開法は、キズが陰毛や下着に隠れるのでキズあとが目立ちにくいという利点がありますが、お腹を開けにくく赤ちゃんを取り出すのに時間がかかり、血腫などの合併症も起きやすい上に、術後の痛みも強く、2回目以降の帝王切開が難しくなることがあるという欠点があります。
何らかの問題が生じ、緊急で帝王切開を行う場合には文句なく縦切開を選択しますが、トラブルの可能性の低い予定帝王切開分娩の場合にはキズあとの目立たない横切開が選択されることが最近は多くなっています。
それでも帝王切開を受けた方の3人に1人はキズあとの症状に悩まされています。
日本医科大学のデータ(土佐眞美子ほか:帝王切開後瘢痕ケロイドの発生率に関する検討.瘢痕・ケロイド治療ジャーナル.5:96-98、2007.)によると、この病院で帝王切開を受けた方の30%の方にケロイドなどの目立つキズあとが確認され、その大半が痛みやかゆみなどの不快な症状も伴っていたといいます。
さらには、このようなキズあとの症状に悩まされながらも治療方法などの情報が得られず放置していたケースが大半を占めていました。
帝王切開後のキズあとを目立たなくする方法
帝王切開後のキズあとを目立たなくする方法はいろいろあり、詳しくは桑満院長のブログを参考にしていただき、ここでは手術で治す方法について実例をもとにお話します。
45歳、女性のAさんは2回出産し、2回とも帝王切開を受けています。そのキズあとが大きく広がり、ミミズ腫れのように盛り上がって目立つのと、体を反ったりねじったりした時にキズの部分がつっぱり痛みも出るということで当院に相談に来られました。
これがキズあとの写真ですが、とても目立ちますね。下三分の一は陰毛の部分ですが、毛は剃っています。
ここまで範囲が広く、盛り上がり、ひきつれたキズあとは薬やレーザーのみでは治療不可能で、切る手術の適応になります。
以前に顔のキズあと修正のブログでも紹介しましたが、人間の体には皮膚のコラーゲン線維の方向によってできる布目のような線があります。これを皮膚緊張線(ストレスライン)といい、加齢とともに皮膚に刻まれてくるシワの方向にだいたい一致しています。体の場合は下図のような方向に存在しています。
キズあとがこのストレスラインと平行にある場合はシワの中に隠れるのでそんなに目立たないのですが、直角に交わるように存在するととても目立ってしまいます。
おなかの部分は上図のように横方向にラインがありますが、Aさんのキズあとはそのラインを横切るように直角にできているのでキズに大きな緊張がかかりケロイドのように目立つキズあとになっているのです。
通常なら、キズあとの部分をきれいに切り取って美容的に丁寧に縫い合わせればよいのですが、Aさんの場合はキズあとが縦の方向に縮むことで、そこがひきつれ、体を動かしたときにツッパリ感や痛みの症状があるので、縮んだキズを伸ばすような処置もしなくてはいけません。
そこで登場するのがZ形成術です。
Z形成術とは?
Z形成術は美容外科・形成外科の基本中の基本の手技で、いろいろな手術に応用されてよく用いられています。
上図のB~Cのラインをひきつれたキズあとだとすると、A~B~C~DのようなZ形に切って、A~B~Cの三角とB~C~Dの三角を入れ替えて縫うという方法です。デザインの形がZ形なのでZ形成術と呼ばれています。
この方法の主な目的は2つあります。
(1)B~C間の距離を延ばすことができます。つまり、縮んでひきつれたキズあとを引き延ばして緊張を取り除く作用です。
(2)ストレスラインと直角に交わっていたB~Cのキズを横方向に変えて、ストレスラインと平行にすることができます。
Aさんのキズあとは長さが長いので、このZ形成術を1か所だけでなく連続でつなげて行う、連続Z形成術として用います。
手術の結果を実際の写真で見てみると、こんな感じです。上が手術前、下が術後半年後の状態です。
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キズあとはほとんど目立たなくなっていますね。ここで注意しないといけないのは、手術のみでここまできれいになるわけではなく、術後のケアもとても重要だということです。
抜糸が終わったあと、キズに緊張がかからないようにテーピングをしたり、場合によってスポンジやサポーター、コルセットなどで圧迫固定したりといったケアを数ヶ月おこなう必要があるのです。
さらに必要があれば、飲み薬や貼り薬、局所注射などを併用しながらさらにきれいなキズあとに仕上げる場合もあります。
帝王切開はお母さんや赤ちゃんが安全に出産できるための手段ですから、それによってキズあとが残ってしまうのはある程度は仕方のないことです。しかし、目立つキズあとが残ったとしても、それをきれいに治す方法があることをこれを機会に知っておいていただけると安心して出産できますね。
最後に、このブログを読んでいただいたご本人様、あるいは奥様、娘様、ご友人などで帝王切開後のキズあとでお困りの方がいらっしゃいましたら、モニターとしてご協力をお願いできないでしょうか?キズあとの症例写真を充実させたいのです。ご協力のお礼として、通常の治療料金の半額で手術をさせていただきます。