鼻の美容整形でプロテーゼを入れた後、いろいろなトラブルが発生した場合には、異物であるプロテーゼを抜いて自己の組織に入れ替える方法「自家組織移植」がベストです。この自家組織移植とは、自分の体の組織(骨、軟骨、筋膜、真皮、脂肪など)を取ってきて、他の箇所へ移植する手術法です 。
自家組織移植術は形成外科領域における基本中の基本の方法
たとえば、重症なやけどで皮膚が欠損した場合は皮膚移植をして傷をふさぎます。また、生まれつき耳がない(あるいは小さすぎる)奇形である小耳症の治療では胸の軟骨を移植して耳の形を作ります。さらに、眼瞼下垂といってまぶたが開かなくなる病気がありますが、重症の場合は筋膜を移植してまぶたを吊り上げることがあります。また、顔の骨折で、骨が欠損したり変形した場合は骨を移植して形を整えます。
このように、自家組織移植は医療の現場で、非常によく用いられている優れた方法なのです。
ただ、欠点としては、移植に必要な組織を取るためには、体にメスを入れなければならないので、その部位に傷あとが残ってしまう問題があります。
病気やケガの場合であれば、治療するためには他の部位に多少傷あとが残ってもあきらめがつきますが、美容外科で行う場合は、本来美容が目的ですから、醜い傷あとは極力避けたいものです。
そこで、自己組織の移植の場合、当院では、できるだけ目立たない部位から組織を取るようにし、また、メスをいれる際にも、もともとあるシワや陰になる部分を切ることで、傷あとがほとんどわからなくなるように様々な工夫をしています。
実際の症例で具体的に見てみましょう。
世界で二番目に長生きの日本人女性。若い頃入れたプロテーゼは一生もちません。
Dさんは39歳の女性です。約20年前に、テレビコマーシャルやバラエティー番組への出演などで有名なある美容外科にてL型プロテーゼを入れました。
最初はとてもきれいな仕上がりで、満足していましたが、年数が経つにつれて、鼻先の皮膚が白っぽく変色してきた(下の写真の円で囲まれた部分)のに気づき当院を受診されました。
診察したところ、埋め込んだプロテーゼに圧迫されて鼻の皮膚全体がかなり薄くなっていて、特に鼻先は薄いペラペラの皮膚の下にすぐプロテーゼが触れる状態でした。
さらに、冬場など寒さで血流が悪くなると、鼻先の皮膚が赤く変色する症状も出ているとのことなので、このまま放置すると、やがて鼻先の皮膚が破け、中のプロテーゼが飛び出してくる可能性があります。
2017年の統計によると、日本人女性の平均寿命は87.26歳で、世界第二位の長寿となっています。Dさんは現在39歳ですから、平均寿命まであとまだ50年近くもあります。今、鼻に入っているプロテーゼはとてもじゃないですが、あと50年はもちません。
これ以上症状が悪化しないうちに、プロテーゼを抜いて自己組織(軟骨と筋膜)に入れ替える必要があります。
筋膜移植
筋膜とは筋肉を包み込んでいる膜で、コラーゲン線維でできた非常に強靭な組織です。筋肉があるところならどこからでも採れるのですが、傷あとが残ります。美容目的で行う場合は、できるだけ傷あとが目立たない場所から採取します。
女性の場合は髪の毛が長いので、髪の毛で傷あとが隠れる側頭部が望ましく、側頭筋膜を移植に使います。
側頭筋は側頭部から下あごにつながっている筋肉で、咬む時に使う筋肉です。筋膜を取ることで、この側頭筋の動きに悪影響が出ることはありません。
側頭部の髪の毛の間を切開しますが、毛を剃る必要はありません。切開をする予定線の部分で髪の毛をきれいに分けて、輪ゴムやヘアピンでとめて手術を行います。
上の写真で黒いジグザグの部分が切開予定線です。その部分の髪の毛を分けて、輪ゴムとヘアピンでとめたところです。
直線ではなく、わざわざジグザグに切るのがポイントです。直線で縦に切ると、そこで髪の毛の分け目ができてしまい、目立つことがあります。ジグザグに切ると、傷あとの上に程よく髪の毛がかぶさり、うまく隠れるのです。
ちなみに、下の写真が抜糸が終わった後の傷あとの状態です。まだ少しかさぶたや赤みがありますが、それでもそんなに目立ちませんよね。
あと3~4か月も経って赤みが消えるとほとんど傷あとはわからなくなります。
ただし、美容院などで髪の毛をかきわけてよく見られると頭皮に傷あとがあるのは気付かれてしまいますが、頭に傷があるからといって、それが鼻の美容整形に結びつくことはありません。転んで頭をけがして縫ったとでも言っておけばそれ以上詮索されることはないでしょう。
男性の場合で、普段短髪にされている方は、どうしても頭の傷あとが目立ってしまいますから、その場合は太ももから筋膜を取ることも可能です。
軟骨移植
軟骨は耳から取ります。耳の裏側のシワの中や、耳たぶの陰になる目立たない所を切れば普通の状態で傷あとが他人に見えることはありません。
下の写真の矢印の部分にあるシワの中や、陰になって薄暗く写っている辺りを切れば傷あとをカモフラージュできます。
下の写真がDさんの実際の術後の耳の傷あとです。
シワと同化しているので、どこに傷があるのかほとんどわかりませんね。
耳の軟骨を取ることで、耳が変形したり、聴力に悪影響が出ることもありません。また、軟骨を採取する際に、軟骨のみを取り出し、その周りにある軟骨膜をきれいに残せば再び軟骨が再生してきます。
術前術後の写真
最後に、Dさんの鼻の術前・術後の写真をお見せします。いずれも左が術前、右が術後です。
どの方向から見ても、術前の鼻の形をそのままキープした状態で、中身だけ異物から自分の組織に入れ替えています。
このようにして移植した自己組織は、もともとの自分の鼻の組織と一体化し、完全になじんでしまうので、触っても何も手術をしていない人の鼻と同じで自然です。
硬いプロテーゼを入れている時にはできなかった、鼻すじをつまんだり、鼻先を指で押し上げてブタ鼻のようにすることもできます。
レントゲンを撮っても移植した組織が写ることもありませんし、年をとれば、周りの皮膚が老化していくのと同じように鼻も自然に年をとっていきます。
万が一ケガをして、鼻の皮膚が切れたとしても、中から異物が飛び出してくることもなく、何も手術をしていない人の鼻と同じように、傷口が自然に塞がって治ります。
つまり、何も手術をしていない人の鼻と同じ状態にもどったわけですね。
鼻にプロテーゼを入れて、いろいろなトラブルを抱えている方は、不自然な異物を抜いて自家組織に入れ替えをご検討ください。トラブルの悩みだけでなく、整形したことに対する劣等感や負い目をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。自家組織に入れ替えることで、見た目を変えることなく自分自身の鼻を手にいれることができるのです。