鼻整形の代表であるプロテーゼですが、何十年と何事もない方もいますが、様々なトラブルでお悩みの方も多くいらっしゃいます。他院修正専門の医師として具体的な実例をご紹介します。
L型プロテーゼで皮膚に穴があいてしまったEさん
43歳、女性のEさんは15年程前に鼻にL型のプロテーゼを入れました。
1年ほど前に鼻先の右下の皮膚が直径5ミリくらいの範囲で赤く変色しているのに気づきましたがそのまま放置していました。
今年になり、赤い部分が少し盛り上がってきて、時々痛みも感じるようになってきましたが、激痛というわけではないので、やはりそのまま放置していました。
今年の5月頃から、赤みの一部が黒くなりはじめ、6月になるとついにその部分の皮膚が裂けて、そこから白い物体が露出してきたので、心配になり、当院を受診されました。
初診時の鼻の状態です。
右の鼻の穴の上縁と鼻先の間の皮膚が直径8ミリの範囲で少し盛り上がり、皮膚の一部が壊死をして黒く変色し、裂けた皮膚の間から中のプロテーゼの白い色が見える状態です。
前からこのブログで何度も警鐘を鳴らしてきましたが、L型プロテーゼは最悪の場合皮膚を突き破って出てくることがあり、Eさんの鼻はまさにその状態でした。
通常、L型プロテーの場合、90度折れ曲がる角の部分が当たる鼻先にトラブルが生じてくることが多いのですが、Eさんの場合は鼻先とは少しずれた部位に穴が開いています。
この理由を図で説明しましょう。
L型プロテーゼ は通常鼻先の先端(下図の赤矢印の部分)にトラブルが生じることが多いです。
Eさんの場合は、プロテーゼを入れる際に設計ミスで、プロテーゼが長すぎたために実際の鼻先よりも下にずれ、しかも右側に偏って入ってしまった可能性が高いです。
わかりやすくするために少し誇張して図で表現すると下図のようになります。
実際の鼻先よりも下にL型プロテーゼの角(上図の赤矢印の部分)がずれてしまっています。そして、そのずれた位置で長すぎるプロテーゼの角が裏から皮膚を圧迫し続け、15年後に穴があいてしまったというわけです。
プロテーゼで皮膚が破けてしまう5つの原因
プロテーゼで皮膚が破けてしまう原因の多くは手術する医師側にあります。具体的にその原因をみてみましょう。
(1)プロテーゼの種類の選択の誤り
プロテーゼはその形により大きく分けてL型とI型があります。さらに、L型の支柱の部分を短くカットした中間型というのも含めると3種類に分けられます。30年くらい前にはL型が主流でしたが、その後、皮膚に穴が開くなど、いろいろな合併症が報告されるようになったため、最近ではL型プロテーゼを使わないのが常識です。また、I型とL型の中間型のプロテーゼも鼻先までプロテーゼが入りますから、L型同様に危険です。このような危険なプロテーゼを勧められた場合は注意してください。
(2)プロテーゼのデザインや細工が不適切
厚すぎるプロテーゼや、長すぎるプロテーゼを無理やり入れると皮膚が過度に引き伸ばされて薄くなり穴が開きやすくなるばかりでなく、周りの組織も圧迫されて溶けたり変形したりします。
また、人の鼻の土台となる部分はいくつかの骨や軟骨が組み合わさってできていて、その表面は平らではなく、凸凹したラインになっています。(下図左の赤線部)また、皮膚や皮下組織の厚さも鼻の部位によって異なりますから、プロテーゼを入れる時に、土台の凹凸にぴったりとフィットするようにプロテーゼを削って細工する必要があります。(下図右の赤線部)
この手間をかけず、市販のプロテーゼをそのままつっこんでいるケースも多く、その場合はプロテーゼが土台にフィットせず、ずれたり、たわんだりしやすく、皮膚の一部分に負荷がかかってうすくなったり、穴が開いたりしやすくなるのです。
(3)プロテーゼの上端が骨膜下に挿入されていない
通常、鼻にプロテーゼを入れる場合、鼻根部にある鼻骨の骨膜の下にプロテーゼの上端を差し込んで固定します。骨膜というのは骨の表面をカバーしている膜で、下の左の図の赤い線のように存在します。鼻骨の上の骨膜をはがして、ポケットを作成し、その中にプロテーゼの上端を差し込んで固定するのです。(下図右)
この操作を行わず、骨膜の上にプロテーゼをのせるだけだと、固定されないのでプロテーゼの上端がグラグラ動いたり、ずれたりしていろいろなトラブルの原因になります。
骨膜の下にも入れず、しかもサイズも合っていないプロテーゼを入れると、下図のようにプロテーゼの上端が土台にフィットせず浮き上がって、その上端の部分が皮膚を突き上げ、鼻筋のラインが不自然になったり、最悪、皮膚を突き破ることもあります。
(4)プロテーゼの埋入位置が不適切
プロテーゼの下端が不適切な位置に挿入されていると、鼻の穴の中の粘膜を突き破ってプロテーゼが飛び出てくることもあります。
(5)皮膚を剥離するときの層が浅すぎる
プロテーゼを入れる際には、皮下剥離(ひかはくり)といって、皮膚の下にトンネルを掘って、プロテーゼを入れるスペースを作るわけですが、この時、皮膚をはがす層が浅すぎると皮膚が薄くなり穴が開きやすくなる原因になります。
このように、プロテーゼによって皮膚に穴が開いてしまう原因は、的確な手術が行われなかったことにあります。
皮膚に穴が開いた場合の治療法
Eさんのように、皮膚に穴が開いた状態で放置すると、穴から細菌が入り込み、鼻全体が化膿してしまう危険性もあります。そうなる前に速やかに異物を抜く必要があります。
このようなケースの場合、教科書的にはまずいったんプロテーゼを抜いて傷口が自然にふさがって落ち着くまで半年以上待って、それから変形した鼻の修正をおこなうとなっています。
長年プロテーゼが入っていると、異物が周りの組織を圧迫して皮膚や皮下脂肪の一部が溶けて限りなく薄くなり、軟骨や骨が変形してしまうこともあり、もともとの自分の鼻はすでに原形をとどめていません。
つまり、プロテーゼを抜けば元の鼻に戻れるわけではなく、組織が溶けた部分はへこんでしまい、変形した骨組みの軟骨が不自然な輪郭に浮き出たりして、まったく別物の鼻になってしまうのです。
ですから、この教科書通りの方法だと、プロテーゼを抜いた後、鼻が変形した状態で次の手術まで半年以上も待たなければならなくなり、これは患者さんにとってとても苦痛です。
また、半年も経過すると、鼻が変形した状態で完全に固まってしまい、修正する場合に、とても手術がやりにくく、良い結果も出にくくなります。
とくに、皮膚が破れた部分は火山の噴火口のようにへこんでしまい、その状態で固まってしまうので、非常に修正が困難です。
そこで、当院ではプロテーゼを抜くと同時に自家組織移植もおこない鼻の形が変形しないようにきれいに形成する同時再建法を積極的におこなっています。
この方法だと、手術は1回ですみますし、鼻がへこんだり変形したりすることもなく、患者さんの精神的な負担も軽く済みます。
自己組織は幸いに感染に強いので、多少化膿していたとしても、抗生物質を併用しつつ厳重に管理すれば、同時再建することは可能です。
Eさんは、初診で来院して4日後にすぐに手術しました。プロテーゼを抜き、プロテーゼのまわりにできた被膜も取り除き、自己組織(軟骨と筋膜)を移植して形を整え、破れた皮膚を縫い合わせました。
では、Eさんの経過を写真で見てみましょう。
下の写真が初診時の状態です。
次の写真は、壊死をおこし、黒くなった部分をきれいに取り除いた状態です。中のプロテーゼがはっきりと顔を出してきました。
鼻先の青線の丸は、本来L型プロテーゼの角の部分が入っていなければならない部位ですが、実際は下にずれていて、破れている部分に角がきてしまっています。
向かって左の穴には、手術の際に血が鼻の穴の中に入り込まないようにガーゼを詰めてブロックしています。
次の写真は手術終了直後のものです。
皮膚が裂けていた部分は丁寧に縫い合わせて、きれいにふさがっています。
髪の毛のように皮膚から飛び出している糸は移植した組織につながっていて、組織がずれないようにテープでとめて一定期間固定をするためのものです。
次の写真は、術後3か月後の状態の写真です。
皮膚に穴が開いた部分はまだ少し赤みや色素沈着がありますが、時間の経過とともに徐々に目立たなくなります。
ただし、裂けた部分はどうしても傷あととして残ってしまいますが、術後半年以上経過した後、レーザー等を用いてさらに目立ちにくく修正することは可能です。
移植した自己組織の経過も含め、引き続き定期的にチェックをしていく予定です。