QスイッチYAGレーザーと普通のYAGレーザーの違いについて

スキンケア

同じYAGレーザーでも治療目的が異なるQスイッチYAGレーザー

YAG(ヤグ)レーザーという美容医療、特に脱毛でよく使用されるレーザーがあります。さらにQスイッチYAGレーザーというものもあります。QスイッチYAGレーザーは色素沈着などの疾患で使われます。

今回お話するのは、この使用目的が異なる2つのYAGレーザーについてです。

難しい説明は端折っていただいて構いませんので、ざっくりYAGレーザーには種類があって、それぞれ使用目的が違うんだ、ということだけでもご理解いただけると嬉しいです。

同じYAGレーザーでも、QスイッチYAGレーザーとYAGレーザーは使用目的が違います

レーザーって英単語ではなく略語なんです。なんの略かといいますと「Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation」、この頭文字をとって「laser」と英語では書きます。この長い英語を日本語に直訳すれば「誘導放出をつかった光増幅放射」ってところでしょうか?

そもそもレーザーの仕組みを患者さんから、詳しく知りたいとのリクエストはあまり聞きません。

一方でYAGレーザーって何?CO2レーザーって何?ルビーレーザーって何?とのご質問は時々受けます。

それはご自分の肌のトラブルやお困りの症状に対して使用するレーザーはどれが適切なのかを知りたいからだと思います。

レーザーの仕組みを患者さん、物理というか科学系が苦手な方に説明するとなると、たっぷり3時間ほどはかかります。レーザーの仕組みの詳細に関しては、かなり暇になった時にわかりやすく説明を試みる予定です(予定はあくまで未定だけどね)。

先日、ネット上をフラフラしていたら某美容クリニックのレーザーの説明で吹き出しちゃうようなトンデモがありましたし、医師のくせにレーザーの仕組みや特徴を知らないで患者さんに使っちゃっているのかよ、と驚かされたこともあります。

当院では各種レーザーを取り揃えていますが、1番多用されているのがYAGレーザー、そして患者さんに違いの説明を求められるのが、YAGレーザーとQスイッチYAGレーザーの違いです。

同じYAGレーザーであってもQスイッチYAGレーザーとYAGレーザーは使用目的が大きく違います。FAQとして答えておく必要があると考えました。

まず、実物をお見せしますね。

YAGレーザーとQスイッチYAGレーザー

向かって右側が普通のYAGレーザーで、左側がQスイッチYAGレーザーです。

レーザーを知るなら、まずは周波数と波長の関係を

ここは読み飛ばしても構いません。

クオーツ時計ってありますよね。クオーツは水晶のことであり、この水晶に電圧をかけると水晶が32,768ヘルツで振動します。1ヘルツは一秒間に一回振動する、つまり一秒間に一回の周波数であることを意味します。

メモ:ヘルツとは周波数のこと

水晶は電圧をかけると一秒間に32,768回振動することを利用して、クオーツ時計は時を刻んでいるのです(ここまでは大丈夫でしょうか?)。

レーザーが実用化されたのは1960年、今からちょうど60年前に発振源としてルビーを使用したルビーレーザーが米国のヒューズ研究所で製造されました。

ルビーをつかったレーザーの波長は694.3nmであり、この波長の光はちょうどメラニン色素に吸収されやすいため、本来の軍事的に使用される距離を測る目的で開発されたのですが、人体のメラニン色素を取り除く効果も同時に知られることになりました。

メモ:波長は波の一周期、谷から谷、あるいは山から山の距離です。ちなみにルビーレーザーの694.3nmはnm(ナノメートル)で表されています。ナノメートルは10億分の1メートルですから、694.3nmは6.943マイクロメートルであり、0.006.943ミリメートルになります(説明、大丈夫でしょうか?細かすぎますか?)。

(https://www.konicaminolta.jp/instruments/knowledge/color/section1/02.html)より
ポイント

周波数と波長は別物です(某美容クリニックの説明はこれを混同していました笑)。周波数と波長の関係は、波長が長くなれば周波数は低くなり、波長が短くなれば周波数は高くなります。

(https://www.ushio.co.jp/jp/technology/glossary/material/attached_material_01.html)より

YAGレーザーは発振にYttrium とAluminumと Garnetを使用したレーザーです

話をYAGレーザーに戻します。YAGレーザーはYttrium (イットリウム)とAluminum(アルミニウム)と Garnet(ガーネット)を組み合わせてレーザーを作り出します。

当院で頻用されるYAGレーザーは米国のキャンデラ(Candela Corporation)が製造しているGentleYAG(ジェントルヤグ)と呼ばれるものであり、主に脱毛に使用します。

このジェントルヤグレーザーは別名「ロングパルスレーザー」と呼ばれていますが、この「ロングパルス」という用語が曲者です。

メモ:先程、私が美容皮膚科なのにパルスを理解していなくて驚愕した話を伝えたと思いますが、パルスを波長だと思っていた医師がいたのです。パルスはある一定時間に繰り返される波の数なのに、波長だと書いてある美容系クリニックのサイトがあったのです。これじゃあ、患者さんも混乱して当然です。

簡単にまとめるとロングパルスレーザーはパルス幅が長い、これは照射時間が長い、ということです。

毛根を影響を与える波長でじっくりと照射することによって脱毛が可能になるのです。

QスイッチYAGレーザーのQの意味を説明します

Qスイッチ付きのレーザーをQスイッチレーザーと呼び、今回のテーマであるYAGレーザーにもQスイッチが付いたものを当院ではシミの治療で使用しています。

YAGレーザーの波長は基本的には1064nmですが、半分の532nmにすることも可能です。この532nmの波長の特徴としてメラニンへの高い吸収率が挙げられます。

だからシミの治療にはYAGレーザーの532nmの波長を使用します。

ここで大問題が発生するのです。Qスイッチが付いていないレーザーだと、シミができている部分以外へのダメージをもたらしてしまうのです。

QスイッチのQは「Quality」は単純に訳すと「質」とか「上質」とか「良質」を意味します。Qスイッチはレーザーのパワーが一定数に立ち上がらない時はシャッターによって照射がおきないようにしておいて、レーザーのパワーが有る一定のレベルに達すると、シャッターが開放され、治療部位に強いパルス光を照射することが可能になります(ここの説明、かなり難しい、物理系でレーザー扱っているひとにはたぶん、ツッコまれる)。

当院で使用しているQスイッチYAGレーザーは米国Cynosure社の「RevLite(レブライト)」です。日本でも普及しているQスイッチYAGレーザーである「MedLite C3(メドライトC3)」やその後継機種である「MedLite C6(メドライトC6)」のさらに後継機種というか、改良型のQスイッチYAGレーザーです。

このQスイッチYAGレーザーの新機種であるレブライトが照射される時間は5-20nsec、つまり0.000005ミリ秒であり、0.000000005秒ですから、シミの治療では痛みを感じる暇もありませんね。

実はこのYAGレーザーにしろQスイッチYAGレーザーにしろ、Nd:YAGレーザー(ネオジウムヤグレーザー)というものがあり、話はさらに複雑になるのですが、元素記号Nd (ネオジウム)がYttrium (イットリウム)とAluminum(アルミニウム)と Garnet(ガーネット)にプラスされているだけであり、治療に際してはNd:YAGレーザーとYAGレーザーを使い分ける必要はありませんので、話はここでお終わりますね。

メモ:当院で使用しているジェントルヤグはNd:YAGレーザーですし、レブライトもNd:YAGレーザーです。わざわざネオジウムYAGレーザーと読んだり、Nd:YAGレーザー(えぬでぃーやぐれーざー)と呼ぶことはほとんどありません。

さらにさらに話は複雑になるのですが、当院にはEr:YAGレーザー(えるびうむやぐれーざー)というレーザー機器があるのですが、これは使い方が特殊であるため、エルビウムYAGレーザーと呼ばれることはほとんどありません。

YAGレーザーとQスイッチYAGレーザーの違いをまとめます

YAGレーザーはどちらかというとジワッと熱を加える、QスイッチYAGレーザーは瞬時に熱を加える、そのようの簡単に考えても大きな間違いは無いと思います。

まとめ

QスイッチYAGレーザーは瞬時にレーザーを照射する。

通常のYAGレーザー(ロングパルスレーザーとも呼ばれる)はレーザー照射時間が長い。

一般の方はこのような解釈で十分だと思われます。

QスイッチYAGレーザーは色素性疾患に使用します(波長の使い分けで、表在性のものと深部にあるものを治療可能)、一方のYAGレーザーは脱毛に使用します。

以上、ってことになります。

桑満おさむ(医師)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

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