部分的な痩身と体重を減量するダイエットはそもそも別物です。脂肪溶解注射で全身の体重を減量することは常識的に無理だと考えられます。
しかし、もともと高脂血症の治療に使用されていた脂肪溶解注射の主成分を検討してみると、小顔や二重顎のような小さい領域だけではなく、ぽっこり出てしまったお腹の余分な脂肪も溶かすことによって部分痩せの可能性に関するエビデンスも出てきています。
脂肪溶解注射によって部分痩せは本当に可能なのでしょうか?
脂肪溶解注射でダイエットが可能、と伝える記事・広告も多いけれど⋯
体の気になる部分の脂肪を減少させることを部分痩せと定義した場合、生活習慣病のリスク因子である肥満をダイエットによって解消する必要は無いと考えられます。
たとえば、運動や厳重なるカロリー計算を伴った栄養指導によって、体重が全体的に減少すれば当然ぽっこり出てしまったお腹や顎や二の腕の脂肪もスッキリしますよね。でもねえ、二の腕や顎の脂肪を減らす、つまり部分痩せのためにライ●ップに通う人は希なんじゃないでしょうか?辛い食生活と厳しい運動はしたくないけど、部分的に気になる部分の脂肪を無くしたい、と考えている人の方が特に女性に多いと考えます。
私が院内から密かに持ち出した脂肪溶解注射(笑)。向かって左が「メソラインスリム」(ドイツ製)、中央が「輪郭注射」(スペイン製)、右が「ミケランジェロ」(イタリア製)です。
当院の美容部では複数の種類の脂肪溶解注射を採用しています。理屈っぽい私は業者が脂肪溶解注射のプロモーション時に、「ダイエットできます」と言った瞬間に、「そりゃ無理でしょ。どれだけ大量に脂肪溶解注射を使うことになるのよ〜?」と返していました。
2020年初頭から世界中を恐怖に陥れたヘンテコかつ厄介な新型ウイルスの影響で、外出自粛生活を余儀なくされてしまった私のお腹は無残にも見事にぽっこり状態になっているのを見るにつけ、「お腹、特に脇腹の浮き輪状態の脂肪だけを無くしたい❗」と涙目で余った脂肪を掴む毎日を送っていました。
そこで食事制限や運動がマストである体重減少つまりダイエットはしないでも、
ちょっとお金さえかければ気になる余分な脂肪を脂肪溶解注射によって無くすことができればめちゃうれしい
、と文献等を調べまくりました。たしかに、脂肪溶解注射の効果をしめすエビデンスはある❗
脂肪溶解注射の主成分はフォスファチジルコリン(phosphatidylcholine)とデオキシコール酸(deoxycholic acid)で構成されています。
フォスファチジルコリンはLipostabilという商品名で欧米で高脂血症の静脈内注射治療薬として使用されていて、高脂血症の治療に効果があるのなら、体の脂肪を取り除くことも可能である、と考えた複数の研究者によって部分痩せのための脂肪溶解注射の可能性が模索されました。
「The use of phosphatidylcholine for correction of localized fat deposits」[1]がフォスファチジルコリンを使用した臨床研究で有名な医学論文です。この論文でも「localized fat」とタイトルにあるように部分に脂肪を無くすことが研究対象であり、体重減少を伴ういわゆるダイエット効果に関しては述べられいないことに注意が必要です。
これは「Injection lipolysis for effective reduction of localized fat in place of minor surgical lipoplasty」[2]からの引用です。この論文もホスファチジルコリンを脂肪に注射しています。
脂肪溶解注射のもう一つの有効成分であるデオキシコール酸は「Kybella」という商品名で米国FDA(アメリカ食品医薬品局 Food and Drug Administration)によって二重あごの原因である顎の下の脂肪への脂肪を無くす目的での使用が認められています(FDA Drug Trials Snapshots: KYBELLA)。[3]
ほかにも多数脂肪溶解注射の効果を示した論文はあります。ここで重要なのは脂肪溶解注射の効果はあくまで部分痩せであり、体重減少を伴うダイエット効果を期待するものでは無い、ということです。
肥満解消のために脂肪溶解注射を全身に注射したらどうなるか?
脂肪溶解注射が脂肪を消し去る効果があることは多くの論文によって示されています。脂肪が無くなるのであれば、結果的に体重も減少できるのでは?つまり当然ダイエット効果も期待できるのでは無いか、と考えてしまう患者さんや希に医師もいます。
私が調べた限りの信頼度の高い論文では、脂肪溶解注射を大量に使用して体重減少効果を狙った研究はありませんでした。
そりゃそうですよね、体重減少目的に脂肪溶解注射を行ったら全身に皮下出血(いわゆる内出血)のリスクがありますし、注射自体も痛いですし、注射した部分が一時的に腫れ上がってしまいますから。
ちなみに注射部位の腫れ(87%)、痛み(70%)、皮下出血(72%)、かゆみ(12%)なんて副作用の報告もありますから[4]。腫れや痛みや皮下出血やかゆみは治療後1週間程度でおさまりますが、全くダウンタイムが無いわけではない事に注意を。
脂肪溶解注射で部分痩せすれば、体重減少へのモチベーションも高まるかも
私の最終的な結論は
- 脂肪溶解注射は部分痩せには効果がある
でも、
- 脂肪溶解注射で体重減少、つまりダイエット無理
です❗
しかーし、例えばこんな患者さんがいらっしゃいました。脂肪溶解注射によってお腹周りの脂肪を減少させてベルトの穴が二つ縮まった。それ以来ベルトの穴を気にするようになったら、食事やおやつもある程度節制するようになって、結果的に体重減少つまりダイエットが成功したそうです(あくまで例であり、どなたにでもあてはまる話じゃないことに注意ね)。
脂肪溶解注射の費用は安くは有りませんし、1回で効果がでるものではありません。詳細は→「脂肪溶解注射:脂肪を分解・排出させる薬剤を直接皮下脂肪層に注入する治療法」を御覧ください。
今年の夏は水着になって遊ぶことは全くしなかった私。私は真面目にいまでも外出自粛生活を送っています。水着になったり、Tシャツや薄着でウロウロすることの無い今の時期がチャンス❗と考えた私は、まるで浮き輪をしているかのようなon the belt状態のお腹の脂肪を無くすために、密かに複数の脂肪溶解注射を自己注射しております。
参考文献
- Rittes PG. The use of phosphatidylcholine for correction of localized fat deposits. Aesthetic Plast Surg. 2003 Jul-Aug;27(4):315-8. doi: 10.1007/s00266-003-3033-y. PMID: 15058557.
- Hasengschwandtner F. Injection lipolysis for effective reduction of localized fat in place of minor surgical lipoplasty. Aesthet Surg J. 2006 Mar-Apr;26(2):125-30. doi: 10.1016/j.asj.2006.01.008. PMID: 19338892.
- Drug Trials Snapshots: KYBELLA. April 29, 2015. FDA
- deoxycholic acid (Rx). Medspace