五本木クリニックの医師・松下です。形成外科が専門です。鼻プロテーゼによるトラブルは色々ありますが、今回紹介させていただくのは、皮膚に2ヵ所穴が空いてしまったという症例です。プロテーゼを抜いて無事治療できましたが、今現在プロテーゼを入れていらっしゃる方にぜひとも気をつけていただきたいこと、今後起こり得ることについてお話させてください。
なかなか治らない鼻の吹き出物
52歳、男性のFさんは、約30年前に鼻にL型プロテーゼを入れました。その後、鼻の不具合が生じることはなく、30年間、問題なく経過していました。しかし、昨年1月になって突然鼻全体が赤くなって腫れたため近所の皮膚科を受診したところ、面疔(めんちょう)という重症の毛穴の炎症であると診断され、化膿止めの飲み薬を処方されました。
その薬で2週間様子を見ましたが、改善しないため、薬を変更してさらに2週間様子を見ました。すると、全体的な腫れは落ち着きましたが、鼻根部と鼻先の2ヶ所にプツッと吹き出物のようなものが出てきました。
皮膚科担当医はニキビと判断して、ベピオゲルというニキビ用の塗り薬を渡され、1か月塗り続けましたが、改善せず、ずっと同じ場所に赤い吹き出物がある状態が続きました。
3月頃、再び鼻全体が腫れてきましたが、また化膿止めの薬を2週間飲んで落ち着きました。しかし、2か所の吹き出物はあいかわらず治らず、いろいろなクリニックを転々として、様々な薬を使用しましたが、全く変化がありませんでした。
その後も1~2か月おきくらいに鼻全体が腫れては、化膿止めを飲むというのを繰り返し、7月頃より、吹き出物がさらに大きく膨らんできて、その部分から黄色い汁まで出てくるようになりました。
鼻の症状が出始めて、半年以上たっても治らず、さらに悪化してきたため心配になったFさんは原因を探ろうと、インターネットでいろいろ調べました。そのうちに、私の書いたブログ記事「鼻に異物が入っていることを見抜けなかったため、診断・治療が遅れてしまった例」が目に留まり、プロテーゼが原因ではないかと思い立ち当院を受診されたのです。
なかなか治らない皮膚トラブルの原因
こちらが初診時のFさんの鼻の写真です。
鼻先に直径5ミリ、鼻根部下方に直径3ミリの不良肉芽(ふりょうにくげ)ができていました。(写真の矢印の部分)
肉芽とは、ケガ等で皮膚に穴が開いた場合に、その穴を埋めるように出来る赤く柔らかい粒状の結合組織のこと。普通の穴であれば肉芽組織で埋められて、さらにその上に新しい皮膚が再生して、傷口がふさがれます。しかし、傷の部分に異物があったり、感染を起こしていたり、血流が悪かったりすると、正常な肉芽ができず、でき損ないの肉芽(不良肉芽)ができてしまいます。そうなるといつまでたっても傷口が塞がらなくなってしまうのです。
見た目は確かに、吹き出物やニキビ、皮膚のただれのような感じで重症なイメージではないですが、この不良肉芽の部分から医療用の細い金属棒を差し込んでみると、中のプロテーゼが入っている空間にまでズルズルと入っていき、中と外がつながっている、つまり、皮膚に穴が開いていることがわかります。
Fさんの場合、吹き出物やニキビのように見えていたものは不良肉芽だったのです。プロテーゼに圧迫され皮膚に穴があいてしまい、その穴を埋めようと、体の修復反応で肉芽組織が出てきましたが、プロテーゼという異物があり、さらに感染も合併していたために不良肉芽となってしまったわけです。
これではいくらニキビの薬を塗っても治りません。唯一の根本治療は異物であるプロテーゼを抜くことです。
プロテーゼを抜く手術が唯一の治療法
原因が判明したので、Fさんはすぐに当院で手術を行うことにしました。
この場合の唯一の治療方法は、皮膚トラブルの原因になっているプロテーゼを早急に抜き取ることです。しかし、抜き取っただけでは鼻の形が大きく崩れてしまうため、鼻の形をきれいにキープするために、同時に自分の組織を移植して形を整えるのがベストです。
手術後は経過順調で、1週間後には不良肉芽が消え、新しい皮膚が再生してきました。
左が術前、右が術後3か月の正面写真です。
左が術前、右が術後3か月の横からの写真です。
こちらが抜き取ったプロテーゼです。
30年も入っていたので、プロテーゼは変色し、そのまわりにできた被膜は一部石灰化しており、皮膚との癒着(ゆちゃく)も強く、取り出すのに時間がかかりました。
Fさんは、2ヶ所も皮膚に穴が開いていましたが、自己組織による同時再建手術を行うことにより、鼻の形が大きく崩れることなく、穴もきれいに治り、ようやく安心して毎日の生活が送れるようになりました。
鼻にプロテーゼを入れている方が普段注意しなければならないこと
Fさんはまさかプロテーゼが原因で鼻の皮膚にトラブルが起きているとはわからず、てっきり皮膚の病気だと思い込んでいました。また、診察した皮膚科の医師も、鼻のプロテーゼが原因でこのような症状が出ることは知らなかったため、誤診をしてしまったことになります。
そのため、原因がわかるまで半年以上もかかってしまい、その間にFさんはとても心配し、辛い思いをされました。
不良肉芽のところにはずっと絆創膏を貼り、マスクをした状態で毎日を過ごされていました。
残念ながらこのような患者さんが後を絶ちません。鼻にプロテーゼのような異物を埋め込んでいる方は、いずれ何らかのトラブルが生じてくる可能性があることを自覚し、日頃から鼻の状態には十分に気を配っていただきたいと思います。
鼻にプロテーゼを入れている方で、鼻の皮膚に次のような症状が出た時は要注意ですので、鼻の修正手術を専門的に行っている医療機関に相談に行ってください。
- 鼻の皮膚が赤くなる
- 鼻の皮膚が白くなる
- 鼻が腫れる
- 鼻の皮下にしこりができる
- 鼻に吹き出物のようなものができる
- 鼻の皮膚がただれる
- 鼻の皮膚から膿や汁が出てくる
- 鼻の皮膚が部分的に盛り上がってくる
鼻に入れた異物(プロテーゼ)は一生もちません。いずれ取り出して自分の組織に入れ替える必要があります。
上記8つの症状のいずれかが出てきたら、プロテーゼが限界にきている兆候ですから、すみやかに異物を抜いて、自己組織に入れ替えることをおすすめします。